首相は憲法改正というけれど!多くの国民は自民党改正案を見ても居ない!緊急事態条項と家族条項の不当性に気付いていない(小林節教授)
共同通信の世論調査の結果が示しているように、暴走する政権と、分裂して対抗勢力になれずにいる野党に対して、有権者たちは意外に冷めているようである。 とはいえ、あの調査結果には注意すべき問題点もある。つまり、自民党改憲草案の中にある「緊急事態条項」の新設と「家族条項」の新条文について、主権者国民は理解が不十分で、その不当性に気付いてはいない。
そこで、その「緊急事態条項」の意味を端的に説明すれば次のようになる。まず、首相が緊急事態を宣言すれば、既に掌中にある行政権に加えて、国会が有する立法権(それを通して司法権も)と財政権も掌握し、さらに地方自治体の首長に対する命令権も掌握する。そして、私たち一般国民は公の指示に従う義務を負う。要するに、首相独裁体制の確立である。
何事も、やりたい放題出来るという非常大権を掌中にするという事です。(未だ憲法も改正されていないうちでさえ、国会審議の省略化、強行採決連発、議事録から不都合な部分を削除、国会の再々延長など、やりたい放題やっているが、これらが全て合法化させるのが、非常大権である)
しかし、東日本大震災等を体験した日弁連の実態調査の報告によれば、大規模災害の際には、何よりも、現場の自治体の首長に権限を集中し、さまざまな対策を迅速に実施できるようにする必要がある。だから、真に必要なことは、現行の災害対策基本法等を実際の必要にかなったものに改正することで、首相独裁体制を憲法に明記することではない。
また、家族条項であるが、あの世論調査では、「家族は、互いに助け合わなければならない」とあるが賛成か反対か? と問われ、有権者は、「50%」が「賛成」と答え、反対は18%であった。 確かに、一般論として「家族は仲良くすべきか?」と問われれば、反対とは言い難いであろう。しかし、この問題の本質はそうではない。問われるべきは、国家権力が憲法(最高法)を用いて一般国民に「家族は仲良くしなさい」と命ずることの異常性である。国家がそこまで入り込む必要性は本来ないのです。 憲法は、国民大衆の人権を守るために権力担当者を縛るものであったはずである。 誰でも家族とは仲良くしたいはずである。しかし現実には不幸にしてそうならない場合(例えば離婚)もある。
自民党草案を見れば、戦前の家父長制の復活を目指しているように見える。その社会的基礎の上に、突き詰めていけば、立憲君主制を目指すとある。即ち主権は国民から外し、戦前の天皇制復興・復活をさせ、国民の基本的人権を無くし、国民の国家への忠誠心を求めるものとなっている。3世帯同居を理想とし、家族は助け合って生活せよと謳っている。1件尤も言い方をしているが、その意図することは、家族は家長に絶対服従、国民は元首(天皇)に絶対服従という事を意味している。自民党はこういう一見尤もだという表現を持ち出し、国民を引き付け、実はそれと反対な方向にもっていくというトリッキーな言い回しが多い。それは本来、法が介入すべき問題ではなく、各人の自律の領域にある。即ち法律上の範疇の問題ではなく、道徳の領域の問題である。これを混同すると、トリッキーな理屈の暗礁に乗り上げてしまうのである。法は道徳に介入すべきではない。
小林節慶応大名誉教授profile
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。
記事・画像 引用・参考元 nikkan-gendai. <articles >
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