使うと死ぬ美白液、白血病治療… 実際にあった「猛毒ヒ素の意外な使い道」とは?
1955年の森永ヒ素ミルク中毒事件、1998年のカレーヒ素混入事件が、日本の刑事事件では特に有名な事件として知られる「ヒ素」。
ヒ素は毒。ほぼすべての人が知っている話だとは思うが、一体どういった毒で、どうした症状が出て、どれくらい危ないのか、知識を改めておきましょう!
■有毒ヒ素化合物筆頭 亜ヒ酸
基本的にヒ素というのが毒物として用いられる場合、この亜ヒ酸こと三酸化ニヒ素(As2O3)のことで、水に溶かすと[AsO(OH)2]^- や [AsO2(OH)]^2- といった陰イオンとなり酸性の液体となる。これがいわゆる亜ヒ酸水で、古今東西のほぼすべてのヒ素の毒物事件で使われていると言っても過言ではないくらいにはメジャーな猛毒です。
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古くは古代ローマ時代のネズミ殺しから暗殺まで幅広く毒として使われてきました。ヒ素は天然にわりといっぱい産出する鉱物、「足尾銅山鉱毒事件」などでは、黄鉄鉱と一緒にヒ化銅といった化合物で大量に出土し、分離工程で亜ヒ酸になり川を汚染しました。
ヒ素化合物は天然に多くありますが、一部では金属ヒ素が産出するところもあり、金平糖のようなその名も金平糖石という純ヒ素鉱物も存在します。
日本画の絵の具としてもエメラルドグリーンやオーピメントとして、カラフルなヒ素化合物が使われており、いずれも有毒なので取り扱いには注意が必要です
特にエメラルドグリーンは粉塵を吸引するだけでも危険(亜ヒ酸と同程度)なので、最近は代替顔料を使うことが多くなっています。
亜ヒ酸が毒として使われたのは、天然に多く産出するヒ素化合物を加熱するだけで簡単に亜ヒ酸を得ることができるので、昔はそうしたヒ素化合物を鍋に入れて蒸し焼きにし、上に藁の束などを乗せて亜ヒ酸を得ていました。
■無味無臭の理想的な毒
この毒の重鎮。ヒ素は毒物の効果としてはタリウムと同じく細胞毒と呼ばれます。細胞毒という言葉は原形質毒や細胞酵素毒性などいくつかの作用方法によって名前が付いていますが、(微生物や実験動物などを利用して化学物質が及ぼす影響を調べる方法である)バイオアッセイ的には、もっと細かくターゲットとその関連性を精査していくので、どこどこをナニナニするから細胞毒という言葉は実はあまり使いません。とはいえ、触れた細胞を皆殺しにしていく解りやすい毒性を示す言葉なので、このまま続けます。
細胞毒は細胞の生命活動のあれこれを阻害することで細胞を殺し、結果的に障害を出します。故に、神経毒のようなターゲットはなく、触れた部分をあまねく殺していくという点でも、本当に毒らしい毒といえます。故に、無差別に細胞を殺していくので、致死量まではけっこうな分量が必要になるので、数値の上では凶悪さが伝わりにくいですが、純度が高いほど無味無臭という、毒としては理想的な性質があり、100~200mgの致死量/人間も、分量を気づかせず飲ませることができるという点で、毒物らしい毒物ですね。
ヒ素イオンは細胞にするりと取り込まれ、細胞内のイオウと結合します。(チオール基もしくはスルファニル基)。生体内ではアミノ酸のシステインが持っており、特に酵素に多く使われています。その酵素に結合することで細胞活動が停止していきます。その結果、エネルギー源であるATPの合成を阻害することで、細胞のエネルギー循環が断ち切られ、細胞が死に至ります。
このヒ素、ただならぬ毒性を持ちながら、飲んでも浴びても毒性を発揮します。水溶液中のヒ素は皮膚に浸透性が高く、特にメラノサイトを標的に沈着を起こします。メラノサイトは皮膚色素を作る細胞なので、色素沈着を起こすので、ヒ素焼けというシミが大量にできます。しかし、このヒ素の毒性をかつて美白に使っていた時代がありました。
■危なすぎるヒ素の美白効果
ヒ素には意外な効能があることが知られています。それは女性が欲してやまない「美白」。そして意外過ぎる難病の治療薬です。純白の絹のような肌を手に入れることができる……という話があります。本当でしょうか?
美白。現在でさえ決定打と言えるような美肌化粧品は存在しません、っていうか、そもそも化粧品ごときに肌の性質を変えるような薬剤が入っていてはいけないのですが。
医療用の塗り薬にもハイドロキノンやレチノイン軟膏、そしてレーザーシミ取りなどそれなりに効果のある薬や治療法はありますが、大量のシミを消したり、そもそも肌を白くするなんてことはかなり難しい部類です。
効果から言えば、トファナ水。17世紀を代表する有名な毒物であり究極の美白化粧水です。飲むと人が死ぬ化粧水とか今では考えられませんが、時代は17世紀、モルヒネも薬局で買えるおおらかな時代です(笑)。
トファナ水の成分は亜ヒ酸。イタリアの火山の近くでは天然ヒ素が産出し、それを炙れば簡単に酸化物になり、それを溶かしたものを化粧水として利用していたようです。
ヒ素は強力な細胞障害性の毒というのは説明した通り、細胞のエネルギー源であるATPの合成を邪魔します。ところがどっこい、そもそもヒ素による皮膚炎の中には黒皮症という項目があります。ヒ素が皮膚に触れると、皮膚が防衛作用を働かせ、メラニンを大量に製造するというもの。さらに角質化が進み、皮膚がボコボコになります。さらに被爆し続けると砒素白斑黒皮症という、黒くなった肌に今度は白斑が生じてきます。
しかし、文献によると一時的に肌は汚くなるものの、その後、肌は白味を帯びていくという話があり、にわかには信じがたいですが、どうやら白くなるようです。
その原理はおそらく、細胞が外部から来るヒ素に対して必死の抵抗を行い黒化、さらに角質を増強して被爆ダメージを避けるようになりますが、次第にメラノサイトの層まで細胞が死んでいき、かろうじて残った細胞がどうにか薄い皮膚を作り、その皮膚にはメラノサイトを維持するだけの力もなく結果、白く見える……というものでしょう。
間違いなくガンの原因にもなりますし、皮膚から入り込んだヒ素は体のあちこちを蝕みます。一時的に白い肌が得られても、その皮膚は、ちょっとした刺激で破れてしまうような脆いものででしょうし、あらゆる病気のリスクも増えるでしょうから、とてもオススメできるシロモノとはいえないでしょう。
■白血病がヒ素で治る
ヒ素の中毒は、昔から鉱山や、井戸水にヒ素が溶出することによる風土病などとして、広く研究されています。近年では、急性前骨髄球性白血病の治療薬として、亜ヒ酸が使われています。
トリセノックスというちゃんとした治療薬で、適用は「再発・難治性急性前骨髄球性白血病治療剤」となっています。ただ白血病すべてに効く特効薬というわけではなく、一部のタイプの白血病にしか有効ではないのですが、かなり治療例があるようです。
副作用が出ても、ヒ素中毒は過去の膨大な研究データがあり、病院であれば適切に対処も可能であり、毒をもって病を制するという、毒と薬は紙一重を地で行く治療薬となっています。
ヒ素は自然界に豊富というだけあって、いざ地表に大量にばらまかれると、大半の動植物にとって有毒なので、分解もされず、ただただ土地が荒廃させてしまいます。そこで、いろいろな汚染を除去する方法が考案されていますが、中でも面白いのが植物を使ったヒ素の除去でしょう。
ヒ素はバイオリーチング(生物濃縮)でも集めることができます。最近注目されているのが、モエジマシダというシダ植物で、しかもヒ素をチオール(イオウを含んだ化合物の一種)に取り込んでしまい、無害なヒ素化合物にしてしまうという能力があります。このシダは成長も早く繁殖力もそこそこということで、ヒ素で汚染されてしまった土地を復活させることができるのではないかと期待されています。
引用・参考元 Excite News < Tocana 文=くられ>
※画像は「Wikipedia」より引用
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