突っ込まれると見苦しい「感情=ブチ切れ」答弁…森友疑惑、主役は「安倍晋三」その人である
安倍官邸が火消しに躍起になっている森友学園問題。火ダネは学園がタダ同然で仕入れた国有地への小学校新設だったが、疑惑を増幅させたのは安倍首相夫妻との怪しい接点だ。新設校が「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付金を募り、名誉校長だった昭恵夫人が広告塔を務めていたのは紛れもない事実である。国会で昭恵氏の関わりを追及された安倍は「妻は私人なんです」とブチ切れ、「辞令が出ていないという意味では公人ではない」とも強弁したが、その場しのぎは通用しない。
■職員名刺は「総理夫人付」■
所属を記す位置には「内閣総理大臣夫人付」と刷られ、連絡先は内閣総理大臣官邸。メールアドレスも官邸のドメインだ。裏面には英文で「総理大臣夫人補佐」と表記されている。秘書官のような役割を担っている訳だ。
昭恵氏のサポート役として現在、経産省から2人、外務省から3人の職員が配置されている。2日の国会で“アッキーシフト”について説明した土生栄二内閣審議官は、昭恵氏の私的行動については「関与しないという風に承知している」と答えたが、翌3日には軌道修正。昭恵氏が2015年9月5日に森友学園が運営する塚本幼稚園で名誉校長就任の講演をした際、職員が同行していたと明かした。オカシイのがその続きで、「職員が公費で出張した事実はない。勤務時間外の職員の私的活動だった」と言うのである。
菅官房長官も3日の会見で「夫人の講演は私的行為だ」と強調。「職員の同行目的は夫人の連絡調整等のサポートを行うためで、私的活動そのものをサポートするためではなかった」とした。もはや、禅問答だ。
政治学者の五十嵐仁氏は言う。「首相夫人は一般人とは異なる立場にあると捉えるのが常識でしょう。少なくとも準公人にはあたる。私的活動中の準公人の連絡係として公務員が公務に駆り出される。あまりに苦しい釈明です。そもそも、森友学園が昭恵夫人を重用したのは、〈総理大臣夫人〉だからで、学園のHPでの取り上げ方を見ても明らか。ご本人も講演で〈私もお役に立てればいいと思っていました〉と発言している。名誉校長を引き受ければ学園にハクが付き、それによるメリットが生まれる。昭恵夫人の言動を見る限り、そういう考えを持っていたとみるのは自然でしょう」
幼稚園児に教育勅語を暗唱させ、軍歌を歌わせて、運動会では「安倍首相がんばれ!」と宣誓させる。戦前回帰のアナクロ狂信学園の名誉校長に首相夫人が就き、学園は格安で8770平方メートルもの国有地を手に入れた。その過程で、鴻池元防災担当相の国会事務所でコンニャク封筒を差し出す陳情攻勢があった。こうした事実が表に出てきているのだから、国会で連日取り上げるのは当然だ。にもかかわらず、安倍は「レッテル貼りだ」「限度を超えている」などと、まるで被害者ヅラだが、トンデモない。背景を知れば知るほど、この疑惑の根深さ、薄気味悪さが浮かび上がってくる。
■疑惑の登場人物はそろって日本会議に連なる人脈■
森友学園の籠池泰典理事長による政界工作の一端が3日、新たに発覚した。鴻池に籠池を引き合わせたのは、元秘書だった黒川治兵庫県議で、13年に知人を通じて知り合った籠池から橋渡しを依頼されたという。もうひとりは、大阪維新の会の中川隆弘大阪府議。14年に豊中市内で籠池夫妻と会い、「(小学校の)認可が出るか出ないかなので、協力してほしい」と頼まれ、府に審議状況を確認したという。中川につないだのは安倍の地元である山口県の松浦正人防府市長だ。
疑惑に関わった人物が次々に出てくることで、前例のない用地取引が誰の口利きで実行されたかに焦点が移りつつあるが、この流れは論点ずらしのミスリードだ。便宜を図った政治家や官僚をあぶり出し、一連の流れを解明する必要はある。しかし、疑惑の本丸は安倍晋三なのである。
ベストセラー「日本会議の研究」の著者である菅野完氏はこう言う。「森友学園疑惑に登場する人物は、安倍首相の支持基盤である保守系団体の『日本会議』の人脈につながります。籠池理事長は大阪幹部で、鴻池元大臣は国会議員懇談会、黒川県議は地方議員連盟のメンバー。松浦市長は自虐史観を排した新しい歴史教科書の採択を目指す『教育再生首長会議』の会長です。日本会議の外郭団体の『日本教育再生機構』を通じて大阪府内の公立校の教科書採択に影響力のあるキーパーソンでもあります」
だから、森友学園疑惑は不気味なのだ。政界疑獄に発展したロッキード、東京佐川急便、リクルート事件の根っこには贈収賄があった。ところが、森友をめぐる構図は本質的に異なる。便宜供与を求める側はカネがない。小中高をそろえた総合学園を描いていたという籠池は、まずは小学校新設を計画。用地は見つけたものの、資金が足りない。それで、鴻池事務所の陳情記録にあったように「土地評価額を低くしてもらいたい」「高すぎる、何とか働きかけてほしい」などと、露骨に頼み込んでいたのだ。園児の父兄らとの関係も険悪となれば、集票マシンとしても機能しない。見返りを差し出せない森友がなぜ、便宜を得たのか。
■森友は美しい国モデル校■
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)は言う。「銭金の問題ではなく、安倍首相の政治姿勢に共鳴するグループを権力が守る構図が透けて見えます。新設小学校の教育方針は戦前の教育勅語を実行で、安倍政権の方針とピタリと合致する。つまり、国家存亡の機になれば、国のために命を捧げる国民の育成です。森友学園でそうした教育システムを確立し、全国展開すれば、安倍首相の目指す美しい国づくりにつながる。森友学園はアベ教育改革の突破口に位置付けられたのではないでしょうか」
籠池が催しで「行政に一生懸命後押しいただきながら」と、小学校開設を自慢げに語っていたわけだ。行政の後押しは、政治力のなせる業だ。
安倍は当初、「私の考え方に非常に共鳴している方」と籠池を褒めちぎっていた。雲行きが怪しくなると「非常にしつこい」「教育者としていかがなものか」などと手のひら返し。口を極めて罵り始めた。2日の衆院予算委の与党理事会合では「森友学園の方が一枚上手だったのだろう。財務省もうまく丸め込まれたのではないか」とうそぶいていたそうだが、安倍の動向もかなり怪しい。森友学園サイドが近畿財務局で不可解な値下げ交渉を引き出した日に前後して、国有地売却を差配する責任者だった財務省の迫田英典理財局長(現国税庁長官)と官邸で面談。安保法制審議ヤマ場にもかかわらず、大阪への日帰り出張を強行していた。その翌日、昭恵氏は名誉校長就任の講演を行っている。
疑惑は尽きない。籠池はもちろん、昭恵氏や迫田国税庁長官の参考人招致を求めるのは当然なのだが、自民党が抵抗している。 3日の朝日新聞には「(籠池氏は)何を言い出すか分からない。首相官邸が呼びたくないと言っている」という自民国対幹部の発言が載っていた。菅も「違法性のない事案に関わる審査は慎重にやるべきだ」と抑え込み、石井国交相も国有地買い戻しに言及し、幕引きを焦っている。
「国会は国権の最高機関で、内閣の従属機関ではありません。コトは国有地の払い下げ問題にとどまらない。ここまで疑惑が広がった以上、国民の利益を考えれば、国政調査権を発動して徹底的に調べ上げるのが筋です」(金子勝氏=前出)
官邸はなぜ逃げ回るのか。安倍が疑惑の核心だからである。国民はそこを見据えなければダメだ。
記事・画像 引用・参考元 日刊ゲンダイ <巻頭言>
コメント