矢部 宏治氏から見た「今回のトランプ来日」の足取りから見えた「とても残念な2つのこと」
トランプの今回の来日の移動経路をよく見てみると…
一昨日(11月6日)、読者からのメールで、次のようなメッセージをもらった。「矢部さん、よかったですね。トランプが矢部さんの本のプロモーションをしてくれていますよ」
一瞬なんのことかわからなかった。トランプ来日に関しての様だが・・・、しかし、すぐにそれが訪日1日目の彼の移動経路の話だということがわかった。
つまり、ハワイ→ 横田基地(東京都福生市)→ 霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)→ 六本木へリポート(東京都港区)という、移動経路のことだ。この殆どが、在日米軍の専用空域である「横田空域」に含まれている。そのためトランプは、いつのまにか日本に「入国」し、国内を動きまわり、都心部までやって来ているのだが、この間、日本の法令によるコントロールは一切受けていない。
それが私の著書『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』のなかの「第1章 日本の空は全て米軍に支配されている」と「第3章 日本に国境はない」の絶好の宣伝になっている。だから、トランプに感謝しなさいという訳だ。
そんな訳で、トランプは「日本」に来ていなかった!たしかにこのトランプの行動は、われわれ日本人にいろんなことを教えてくれる。そもそもまず、一体彼はいつ日本に「入国」来たというのか!?それは国境を越えたときなのか。米軍基地に着陸したときなのか。横田空域の外側に出たときなのか……。どれもちがう。答えは「実は彼は入国などしていない」ということだ。
トランプが訪日直前に訪れたのは、ハワイにある米太平洋軍司令部だった。在日米軍と在韓米軍はこの司令部の指揮下にあり、日米韓3ヵ国のもつ特殊な歴史的事情(主に現在休戦中である朝鮮戦争)から、ハワイと日本・韓国の間には軍事的に何の切れ目も存在していない。
とくに日本の基地については、米軍はいつでもどこにでも着陸し、そこから又飛び立って他国を攻撃する条約上の権利をもっている。そんな国は他に世界の何処にも存在しない。
横田空域の存在は、最近かなり有名になってきたが、ここで注意してほしいのは、米軍がそのように自由に空を飛べるのは、けっして「横田空域」や「岩国空域」といった米軍専用空域のなかだけでない。日本の上空全てだということだ。ただし米軍基地の上空だけは、速度のはやい軍用機が緊急に離発着することがあるため、「日本の飛行機がいると自分たちも危ないから、あらかじめ囲っている」にすぎないのである。
■軍事的従属体制と経済的繁栄■
こうした「軍事的占領状態」を、独立後65年間も法的に固定してしまった最大の原因が、1960年に岸信介首相がおこなった安保改定であり、その裏側でアメリカ側と結んだ「基地権密約(=在日米軍の法的権利は安保改定後も変わらない)」、そして駐日アメリカ大使の政治工作のもと出された「砂川裁判最高裁判決(=日米安保については憲法判断しない)」であることは、今では多くの人が知るところとなっている。
ただし歴史を公平に振り返ってみると、そうした軍事的従属体制の確立と引き換えに、岸首相が日本に大きなプラスをもたらしたこともまた、否定できない事実だ。
CIAの資金を利用してつくった自民党ではあったが、その党是である世界最強国アメリカへの徹底した軍事的従属路線は、長期にわたる国内の政治的安定をもたらした。更には国家社会主義者だった岸の導入した「最低賃金法」や「国民年金制度」など、いくつかの社会主義的政策が、直後に訪れる高度経済成長の時代に確固とした社会基盤をあたえたことも事実である。
戦後日本は、岸の確立したアメリカへの軍事的従属体制と引き換えに、大きな経済的繁栄を手にした。
それではその岸の孫、安倍晋三首相の時代を生きる私たちは、さらに「深化」する軍事的従属体制のもとで、一体なにを手にしようとしているのだろう。
■私たちが直面する「残念な2つのこと」■
米軍専用空域のなかを、アメリカ大統領を真似て、うれしそうに自分も軍用機(自衛隊機)でゴルフ場との間を行き来する首相のもと、私たちはこれからなにを手にすることになるのか。いまのところそれは、「巨額のアメリカのポンコツ兵器の購入」と「自衛隊の海外派兵」、そして「世界中が懸念する偶発的な核戦争の危険性」以外に、何も考えられないのである。
私は多くの人と同じく、どうしても岸のことは好きになれないのだが、彼を評価せざるを得ない歴史上のシーンが1つだけある。それは就任間もない1957年6月19日、訪米した岸が、首脳会談の席上でアイゼンハワー大統領から、当日午後のゴルフに誘われたときのことだ。
アメリカにとって、今後、日本との間で「より強固な軍事的協力体制」をスタートさせるということは、すでに既定路線だった。しかしその重責を担わせるべき岸という男は、一体どれ程の人物なのか。
日米新時代の行く末がかかった、極度の緊張状態の中、スタートホールで岸の放った第一打は、見事なナイスショットとなった。同じくゴルフを愛する、しかし才能に恵まれないプレーヤーの、今回のトランプ大統領とのラウンドでの安倍首相の第1打が、どのような悲惨な結果に終わったか。(まるでこの先の日本を象徴している様だった) またそのあとのホールで、バンカーから慌てて出ようとした首相の身に、どのような信じられないトラブルが起こったか。具体的には書かないし、胸が痛んで、とてもここには書く事ができない。(扱けたら扱けても、隠さんで、オープンでいいのにねえ!)
ただ1つだけ、岸首相と安倍首相、2人の日本国首相のゴルフ場でのシーンを思い浮かべながら、どうしても言っておきたいことがある。
安倍さん、直接あなたに会ったことのある人たちから聞くと、あなたは性格の良い、とても感じのいい人だそうですね。でもあなたは、お爺さんとは違う。能力も、胆力も、人間としての器も、まったく違っているのです。
どうか、アメリカ大統領と軍事的に肩を並べて「日米新時代を開く」などという、大それた夢はあきらめて、とにかく今はただ、北朝鮮への無意味な挑発丈はやめ、偶発的な核戦争という人類史上の悲劇を招き寄せる事の無いよう、全力を尽くしていただければと思います。(己を知るという事も、人格上大切な事です!ましてや総理という立場なら尚更!)
☝ それぞれの旦那に、ちゃんと「平」「和」を伝えてくれ!
矢部 宏治profile
1960年兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。株式会社博報堂マーケティング部を経て、1987年より書籍情報社代表。著書に累計17万部を突破した『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(以上、集英社インターナショナル)、『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること――沖縄・米軍基地観光ガイド』(書籍情報社)など、共著書に『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。企画編集に「〈知の再発見〉双書」シリーズ、J.M.ロバーツ著『図説 世界の歴史』(全10巻)、「〈戦後再発見〉双書」シリーズ(以上、創元社)がある。
記事・画像 引用・参考元 日刊ゲンダイ <矢部 宏治 >
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