業界再編あったが、セブンとファミマの「差」簡単には埋まらない!

経済・社会

 

この秋、コンビニエンスストア業界で起こった大きな変化が、ユニー・ファミリーマートホールディングスの誕生だった。業界3位だったファミマ(約1万1600店)が、同4位のサークルKサンクス(同約6300店)と2016年9月に経営統合。単純合算で約1万8000店のネットワークとなり、1位のセブン-イレブン・ジャパン(約1万8500店)に肉薄する規模になり桔梗した。

 

これまで業界2位だったローソン(約1万2400店)も含めた三つどもえ。単純な店舗数だけではなく、これら3陣営の戦力を分析しようとしたら、その道のプロでなければなかなか難しいと思うかもしれません。実際、経営コンサルタントとして活動する私が、いつも仕事で使っている帝国データバンク刊『全国企業財務諸表分析統計』に載っている分析指標は、実に56もあります。

 

■すべて小学生レベルの算数で計算できるものばかり

 

しかし、これらの指標に、ひとつとして高等数学を駆使しなければ算出できないものなどありません。経営指標とは、すべて小学生レベルの算数で計算できる。具体的に言えば、上述の56の分析指標は、すべて「割り算」で算出します。その視点からコンビニ3陣営の実力を測ってみましょう。

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【1店舗当たりの売上額を見てみる】

 

店舗数では肉薄するセブンとファミマグループには、簡単に埋められない大きな差があります。それは「平均日販」という指標。ホームページなどで公表されている直近決算資料などから抜き出せる、店舗1日当たりの売上高です。セブンの国内コンビニエンスストアの平均日販は約65万円。一方、ファミマは同約51万円、サークルKサンクスは同約43万円です。

 

そしてローソンの平均日販は約54万円。店舗数でセブンに迫り、ローソンを抜いたファミマグループですが、個店の稼ぐ力で見れば未だ未だ大きく及ばないのです。ローソンが業界2位に長らく君臨できてきたゆえんといってもいいでしょう。

 

セブンとファミマ(サークルKサンクス除く)に絞って、さらに平均日販の差を分解してみましょう。両者の平均日販の差が約14万円といっても多くの人にはあまりピンと来ないのではないでしょうか。こんな時にさらに割り算が活躍します。

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【来店客1人当たりに直せば…】

まず、14万円をコンビニの1日の営業時間である24時間で割ります。すると1時間当たりの売上高の差は5833円と計算できます。

 

両社の来店客数は公表されていないので、さらに細かい数字を正確に割り出すのは難しいものの、業界団体の公表数字から一定程度は類推できることが可能です。日本フランチャイズチェーン協会が発表している「コンビニエンスストア統計調査年間集計」を頼りにしてみましょう。

 

同調査によれば、日本のコンビニエンスストアの店舗数は2015年末で5万3544店。2015年の来店客数は延べ167億3089万人です。ここから1店舗当たりの来店者数を割り出すと1年間で約31万2000人となります。

 

更にこれを1日当たり(365日で割る)、1時間当たり(24時間で割る)で計算すると全国的にコンビニには1時間当たり約36人が来店している計算となります。実際には2陣営の来店者数には差があるはずですが、全国平均値を計算材料として、セブンとファミマの1時間当たり売り上げ5833円の差を36人で割ってみると1人当たり162円という数字が出てきます。つまり、セブンとファミマの差は、来店客1人当たりに直せば、「飲み物1本あるいはスイーツ1個を余分に買わせているかどうかの差」であるいう事ができます。

 

別の見方もできます。コンビニエンスストア統計調査年間集計によると、2015年にコンビニへ来店したお客の平均単価は約609円。1時間当たり売り上げ5833円をこの平均単価で割ってみると、1時間当たりの来客数の差は9~10人となります。店舗数で肉薄する2陣営の差は、小さな積み上げが大きく左右していることが分かります。この差は簡単には詰まらないでしょう。

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これ以外にも割り算はさまざまな経営分析に使えます。例えば、よく耳にする経営指標である売上高営業利益率は、営業利益を分子、売上高を分母に置いただけの割り算です。自己資本比率は、自己資本を分子、総資本を分母に置いただけの割り算です。このように、経営の良し悪しを判断する指標はすべからく、「何かを分子に置いて、何かを分母に置く」割り算に過ぎないのです。

 

また、どの数字を分子に置いて、どの数字を分母に置くか、ルールで決まっているわけでもありません。56もある分析指標ですが、ある企業の実態を表すのにどれもしっくりこなければ、自分で数字を組み合わせて新しい分析指標を作っても、まったく問題ありません。

 

実際、企業分析において、自由な発想で数字を拾って割り算してみると、あいまいだったものがはっきり見えたり、思わぬ発見があったりします。<CVSサイドから見るとそこから革新が生まれたりします>

 

■身近な仕事に役立つ割り算

 

このように、気が遠くなるような大きい数字でも、割り算を使って肌感覚で分かる単位まで落とし込めば、興味深い企業分析ができるようになります。また、大企業だけではなく、割り算を使った経営分析は自社や取引先の分析でも役に立ちます。

 

私がおすすめするのは、自社や取引先の年間売上高を12で割って月商を把握すること。そしてその数字を貸借対照表の売掛金や棚卸資産と比べることです。通常、企業間取引は当月締め、翌月末払いというケースが多いと思いますので、理屈では期末に売掛金は1~2カ月分程度が残っているのが普通です。これがもし、4カ月分以上計上されていれば、現金回収がルーズ、取引先が経営不振、など資金繰りに問題が生じている可能性があります。ひどい場合は、架空売上を計上していることも考えられます。

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また、業種にもよりますが、在庫である棚卸資産はどんなに長く滞留しても月商2カ月分が限度でしょう。これを超えて過剰に多い場合は在庫管理がルーズ、在庫評価を適正に行っていない、などの問題が生じているおそれがあります。また、これもひどいケースでは架空在庫を計上して利益を水増ししていることも考えられます。

 

数字に苦手意識を持つビジネスマン・経営者は多いもの。会計用語は難しく、財務諸表は訳のわからない数字の海で見るのも嫌だ、という気持ちは理解できます。私もかつてはそうでしたから。しかし、冒頭で述べたように企業分析指標はすべて、「何かを分子に置いて、何かを分母に置く」割り算に過ぎません。

 

引用・参考元ヤフーニュース<東洋経済オンライン 11/26(土) 配信 多田 稔>

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