国策決算は完全に裏目 「東芝救済シナリオ」にわかに暗雲 !

 

どうやら「国策決算」に市場は「ノー」を突き付け納得できないようだ。きのう12日の平均株価は前日比195円26銭安の1万8552円61銭で終え、年初来安値を更新。昨年12月7日以来、約4カ月ぶりの低水準となった。米国と北朝鮮の対立激化という地政学リスクの高まりに加え、相場の重荷となったのは「東芝ショック」だ。

 

経営再建中の東芝は2度延期していた2016年4~12月期決算の発表を11日、タイムリミットギリギリで強行。上場企業の決算に必要不可欠な監査法人の「適正意見」抜きという極めて異例中の異例の事態となった。前例のない3度目の延期を回避するための「奇策」によって、東芝の先行き不透明感は増すばかり。投資家の不興を買って株価を落としたのは東芝のグループ各社だけではない。メーンバンクの三井住友FGをはじめ、融資先の金融関連株の連鎖安を招き市場を冷え込ませた。

「そもそも、すでに7000億円近い債務超過の“死に体企業”が上場を維持していること自体、欧米メディアは訝し気に見ています。18万人もの雇用を抱え、福島原発の廃炉を担う『国策企業』を迂闊に潰せないのは海外でも百も承知。とはいえ、どんな手を使ってでも上場維持に走れば、東京市場全体の国際的信頼を失墜させるだけ。市場を愚弄する手口は、ボディーブローのように日本株にダメージを与える。(経済評論家・斎藤満氏) 監査法人との対立を振り切り、東芝が決算発表に踏み切った背景について、株式評論家の倉多慎之助氏は「“天の声”があった可能性」を指摘した。3度目の延期で上場廃止に追い込まれないよう、黒幕が裏で蠢いたという見立てである。

 

■技術流出阻止の建前で数千億円の公的資金■

 

巨額の債務超過の穴埋め策として、東芝は“虎の子”の半導体メモリー事業を分社化。上場廃止回避の行方は1日に発足した「東芝メモリ」の売却額に左右される。 菅官房長官は11日、東芝メモリの売却に台湾など海外企業が応札したことについて、「国の安全などの観点から厳格な審査を実施する」と発言。軍事転用の恐れがある半導体技術の海外流出を懸念する立場から、東芝の勝手な判断で売らせないぞ、とクギを刺したわけだが、市場関係者は「最後は国が手を差し伸べるというニュアンスにも聞こえる」と話した。

 

実際、安倍政権は「技術流出の防止」という名目で、経産省傘下の官民ファンド「産業革新機構」や民間企業から、東芝メモリへの出資を募る「日本連合」構想を模索。富士通や富士フイルムHDなどが出資を検討しているという。 ただし、東芝が希望する東芝メモリの売却額は「少なくとも2兆円」(綱川智社長)。3分の1以上の議決権を握り、重要事項に拒否権を発動できるようにするには、6800億円のキャッシュが必要となる。 安倍政権は数千億円単位の公的資金を注入してでも、ゾンビ企業を救うのか。瀕死の東芝の目の前に巨大なアメをぶら下げる背景には、ロコツな「失政隠し」が透けて見えるのだ。

 

■名門企業を誤らせた原子力ルネサンス路線■

 

東芝を債務超過に追い込んだのは、06年に買収した米原発メーカー、ウェスチングハウス(WH)の経営不振である。WHはこの2年で1兆円近い損失を出し、東芝の自己資本を食い潰した。その代償として世界に誇る半導体事業を手放すハメに陥ったのだ。 その責任は第一義的には歴代経営者にあるが、もともと東芝が当初予想の3倍、約6600億円もの巨額資金を投じてまでWHを買収した背後には国の後押しがあった。そもそも原発事業の海外展開を進めた元凶は、経産省である。慶大教授の金子勝氏(経済学)が指摘する。

「東芝が06年にWHを買収したころは、原油や天然ガスの価格高騰を背景に、政財官を挙げて原発をもてはやす風潮がはびこっていました。この年には原発関連企業を束ねる一般社団法人として新たに『日本原子力産業協会』が発足し、経団連名誉会長の今井敬氏が会長に就任します。同年8月には経産省の外局である資源エネルギー庁が『原子力立国計画』を策定。原発の輸出を官民一体で推進する方針を掲げました。『原子力ルネサンス』と称した国策の旗振り役は、今井会長の甥で経産官僚の今井尚哉氏。現在は安倍首相の政務秘書官です」

 

東芝は当時、「15年までに原発33基の海外受注」という高い目標を掲げていた。順調に見えた原発事業にブレーキをかけたのが「3・11」、2011年の福島原発事故である。世界中で「脱原発」の機運が高まり、ドイツは原発全廃にカジを切った。原発の安全規制は強化され、事業者は新たな負担を強いられた。WHの巨額損失の背景にも、米国の規制強化があるといわれている。 世界規模で原発を巡る環境が一変する中、安倍首相はアベノミクスの成長戦略として原発輸出を打ち出し、事故以前よりも前のめりになっていく。そんな政権と二人三脚で原発事業を進めた結果、東芝も致命傷を負ったのである。

 

■国策に従った日本企業だけが滅びる構図■

 

週刊文春は先週号で、東芝の“暴走機関車”と呼ばれていた原発事業の実力者と今井秘書官との、原発事故後も続いた親密関係をリポート。安倍が原発輸出を成長戦略に掲げたのは、今井秘書官の進言に乗ったものと報じていた。 文春はまた、“暴走機関車”の口癖は「国策だから」として、東芝関係者のこんなコメントを伝えていた。〈(原子力部門出身の)佐々木社長(当時)の後ろ盾があり、今井氏とも繋がっている彼に「国策だ」と言われると、誰も言い返せません。財務部門もストップをかけられなかった〉

 

2年前の不正会計問題発覚後も、東芝は原子力事業を経営の柱に位置付け、中国やインドに最新鋭原子炉を拡大するとの計画を立ててきた。世界規模の「脱原発」の時流を無視した強気の経営計画も、原発輸出を「国策」に掲げた安倍政権の後押しがあればこそだ。国策に乗って海外の原子力事業を推し進めた結果、東芝は1兆円近い巨額損失を抱え、名門企業を崩壊へと追い込んだのである。 技術流出に名を借りた安倍政権の手段を選ばぬ東芝救済策は、あくまで失政の責任回避。政権に従っておけば悪いようにはしないから、国策の失敗を表に出すなと、東芝の経営陣をがんじがらめにするのが本当の狙いなのではないか。

前出の金子勝氏はこう言った。「原発事故後も相も変わらぬ『原発ルネサンス』路線の国策に従った三菱重工や日立も、東芝同様に原発事業のマイナスが経営の重荷となりつつある。三菱重工は、自社製の蒸気発生器の故障で米サンオノフレ原発が廃炉となったことで、約7000億円という巨額の賠償請求を受けています。日立もウラン濃縮事業からの撤退で約700億円の減損を計上し、台湾やベトナムの原発建設の撤回によって予定していた仕事を失いました。米GEや独シーメンスなど国際的な原発メーカーの雄が次々と事業撤退しているのに、日本の原発メーカーだけが国策に従って滅びる構図です。安倍政権も失政を認めるべきですが、TPPの頓挫に加え、原発輸出も失敗となると、いよいよ成長戦略は総崩れ。それを認めたくないから、なおさら原発輸出に意固地になる。最悪です」

 

市場の反発で、ゾンビ企業の救済シナリオに暗雲がにわかに垂れ込めても、安倍政権に原発輸出の国策転換を求めるだけムダ。国民は世界の潮流に乗り損なった政権との無理心中を望むのか。思案のしどころである。

 

記事・画像 引用・参考元 日刊ゲンダイ

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/203452