過去の病気と「忘れ去られた」筈の病気が、何故か拡がっている!どうしてか?
関西国際空港利用者の「麻疹=はしか」持ち込み騒動は拡大する一方だ。160906までに、関空従業員を中心に、医師や、救急隊員ら35人の発症にまで至った。利用者のうちの1人が、ショッピングセンターを訪れていたことも判明、更なる感染が心配されている。
以下日本医師会感染症危機管理対策委員会委員であった、おおり医院大利昌久院長<熱帯医学専門医>のおはなし。「日本は嘗て麻疹の感染元として有名だった。麻疹、風疹混合[MR]ワクチンの2回接種が始まり、患者数は劇的に減った。WHOも「日本は排除状態にある」と認めた矢先の出来事となった。今回の事件は、渡航先から持ち込まれたのは間違いない。何処から持ち込まれたのか?
WHO西太平洋事務局のデータによれば、16年4月20日現在の、人口100万人当たりの麻疹発症率は、多い順に、①モンゴル2861.9人、②マレーシア70.4、③中国24.0、④シンガポール9.8となっている。今回の患者は、モンゴルより、インドネシアに向かった数が多い。正確なところは未だ判明していない。
輸入感染症と言えば、毎年100名くらいの罹患者が出ているが、マラリア、肝炎、狂犬病、破傷風で占められていた。ところが今回のような「(日本では排除状態にある)忘れ去られた感染症が、全国的に散見されており、海外からの持ち込みが原因と囁かれている。
その1つに結核がある。欧米で「白いペスト」と恐れられた結核は、抗結核薬の出現により、日本では「過去の病気」となりつつある。実際現在の結核患者数は1800人である。複十字病院呼吸科の元部長で現在水谷内科呼吸器科クリニック水谷清二院長によれば、「その多くは高齢者になって発症する<内因性再燃>の患者である」という。どういうことかというと、過去において結核菌に感染したが、自身の免疫力により結核を発症せずに、菌を肺の中に抑え込んでいたが、高齢になり、免疫力が落ちて、抑えが効かなくなった菌が暴れ出しているということなのです。
日本では結核の息の根を止めたという状況になっているのですが、目を世界に転じると、結核はマダマダ死亡者を多く出している病気となっているという事を忘れてはいけない。‘14年では、960万人が罹患。死亡者数は150万人となっている。特に中国や韓国に罹患者が多い。韓国では本年結核が例年にない程流行しており、幼児施設や、病院での感染が目立っている。特に注目すべきは、どんな薬でも効かなくなっている「多剤耐性結核菌」の存在で、’14年では、全世界で48万人の罹患数で、内19万が死亡に至っている。実に39.6%の致死率だ。
薬剤にはこうした「耐性」を菌に与えてしまうという問題があるのだが、やはり大切というか基本は自身の「免疫力」である。これが正常に機能する限りは、発症させずに済んだり、万が一発症しても治癒に持っていけるのである。しかし年齢を重ねる毎に免疫能は落ち、また現在は「免疫力を落とす要因」が、日常の中に溢れている劣悪な生活環境になっているので免疫能は落ちる一方である。
また現在の日本における「過剰な除菌」意識もこういった問題を助長している要因になっているかも知れない。毎日TVなどで、「除菌率99.9999%!」などと喧伝しているが、「無菌状態などは、本来の自然の中では在り得ない状態なのだ。リンパ球や、顆粒球が「菌」と闘って、常に鍛えておかないといけないのに、無菌・除菌とは、菌の存在しない状態を作るという事だから、この戦いをしないで済んでしまうという状況に陥る。したがって、一回罹ると、2度と罹らないといわれた病気を大人になって発症するという例も出てきた。
こういう状況の中で、日本では駆逐できたという病気が、海外から持ち込まれた場合、感染病が日本において蔓延するという事態が起き得るという事である。
※日刊ゲンダイ 「元気になる」シリーズ。「忍び寄る輸入感染病」忘れ去られた病気が何故広がっているか」コラム参照。
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