うつ病と認知症を判定する「魔法の質問」!

 

石蔵文信(大阪大学招聘教授)

 

診断技術が飛躍的に進歩して、がんや動脈硬化のような形のある病気(器質的疾患)はかなり早期から発見できるようになった。しかし、うつ病や認知症のような精神的な疾患は血液検査やCT、MRIのような画像検査では判別がつきにくいので、慣れた医師が丁寧な問診をして総合的に診断しているのが現状である。そのために複数の医師の診断が微妙に食い違うこともよくある。

 

■やっぱり「定番」!■

 

うつ病では本人が過小に申告すると見逃す可能性があるので、周囲の人の意見を聞くことも重要である。私の男性更年期外来では奥さんにも来てもらい、患者である夫の状態を聞いている。私の経験では、妻の意見を参考に治療する方が、状態を客観的に判断できる場合が多い。 うつ病の診断では「最近の2週間以上気持ちが落ち込み、何をしても楽しくないと感じますか?」などの、うつ病関連のサイトでもよく見かけるおなじみの質問がある。高齢者のうつ病判定におけるこの質問の精度に関し、多くの論文を検討した研究が中国から発表された(The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2017年2月16日号)。これは「過去1カ月間で、気持ちが落ち込んだり、憂鬱な気分、絶望的な気分になりましたか」「過去1カ月間で、しばしば小さなことに悩まされたり、何をしても楽しくないと感じたりしますか」という二つの質問の精度を、高齢者のうつ病に関して調査したものである。133件の研究を調査したところ、4万6651例に16種類のスクリーニング(ふるい分け)法が使用されていた。

 

調査対象の二つの質問は六つの研究で使用されていた。本当にうつ病の人のうち、その二つの質問で正しくうつ病だと診断された人の割合(感度)は91.8%▽うつ病でない人のうち、正しく除外された割合(特異度)は67.7%--というからかなり信頼性があるようだ。ただ質問がどちらか一つになると、やや診断精度は落ちる。 二つとも従来ある一番簡単で有名な質問なので、専門家なら「やっぱりこの質問が定番だ」と納得できる。

 

■認知症でない人をほぼ完璧にふるい分け■

 

認知症の診断も質問が中心となる。家ではかなり認知症が進んでいると思って病院に連れていくと、医師の質問に驚くほどしっかり答える場合がある。医師の前では緊張していわゆる「脳の回線がつながる」状態になるのであろう。それで認知症ではないと判断されたら、苦労している家族にとっては「本当? 普段も医師の前と同じように緊張してよ!」と言いたくなるだろう。

 

実は、うつ病と同じように認知症も簡単にスクリーニングができる“魔法の質問”があるという。やや以前の発表になるが、スペインの研究者がJournal of the American Medical Directors Association誌オンライン版13年6月15日号に報告している。

その質問とは「あなたは何歳ですか」「あなたは何年生まれですか」という単純なものだ。簡単な質問なので、対象者からは30秒以内に回答が得られた。にもかかわらず、その特異度は97.8%、この質問に正しく答えられた人が認知症でない割合(陰性適中率)は98.9%という、ほぼ完璧な数字が出たのである。一方、感度は61.2%で、この質問に答えられなかった人が認知症の割合(陽性適中率)は44.5%ということだった。すなわち、認知症でない人をふるい分けるには良い質問だが、答えられなかったからといってすぐに認知症と診断できるわけではなさそうだ。

 

高齢になると、認知症の予防は難しい。ただ、積極的に社会に出て人に接することと、年齢と誕生日・日にち・曜日を毎日確認するのは大切なようである。

 

 

石蔵文信(大阪大学招聘教授)profile

いしくら・ふみのぶ 1955年京都生まれ。三重大学医学部卒業後、国立循環器病センター医師、大阪厚生年金病院内科医長、大阪警察病院循環器科医長、米国メイヨー・クリニック・リサーチフェロー、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授などを経て、2013年4月から17年3月まで大阪樟蔭女子大学教授、17年4月から大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。循環器内科が専門だが、早くから心療内科の領域も手がけ、特に中高年のメンタルケア、うつ病治療に積極的に取り組む。01年には全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を大阪市内で開設、性機能障害の治療も専門的に行う。夫の言動への不平や不満がストレスとなって妻の体に不調が生じる状態を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。また60歳を過ぎて初めて包丁を持つ男性のための「男のええ加減料理」の提唱、自転車をこいで発電しエネルギー源とする可能性を探る「日本原始力発電所協会」の設立など、ジャンルを超えたユニークな活動で知られる。「妻の病気の9割は夫がつくる」「なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略」など著書多数。

 

 

記事・画像 引用・参考元 毎日新聞 <石蔵文信大阪大学招聘教授 >

https://mainichi.jp/premier/health/articles/20170424/med/00m/010/001000c?inb=ys